【防災×キャンプ】キャンプで培う防災への備え
2023.3.10
感染症の蔓延、たび重なる自然災害は、暮らしを楽しむことを自重させる風潮も、もたらしました。そして、非常時の備えについても情報があふれているなか、はたしてそれが充分なのか、実際に役に立つのか、不安を抱えながら過ごしている方も多いのでは? そう、備えているだけでは「もしも」の時に使いこなせないのです。だからこそ今、日常から始める“楽しく備える暮らし”を! その鍵となるのは、アウトドア。日常生活と防災の意識を結びつける道具とスキルを伝え、心豊かに生き抜く術を、アウトドアと防災のプロ・寒川さん夫婦の暮らしに学びます。
「サボる」防災とは
アウトドアを生業としてきた僕は東日本大震災の翌年からアウトドア×防災をテーマに活動を始めました。その時に『楽しみながら備える』というコンセプトを打ち出したのですが、人からは不謹慎だと非難されることもありました。まだ多くの方が災害の最中にいて苦しまれいてる状況でしたから、叱られるのも当然かもしれません。あの時なぜそんなワードを出したのかというと、災害の後もずっと続く重い空気感のなかで、どうやって自分たちは心をリカバリーすればよいのかを考え続けて行きついた一つの結論だったのです。人は苦しむために生まれたのではない、楽しむために生きているのだ。ただ、このままでは人生を楽しむことができなくなってしまう。災いは望まなくてもある日突然に降りかかる。人生を楽しむためには日ごろから備えることが必要だ。そう、防災のためではなく、楽しく生きるために備えていくのだ、という気持ちが湧き上がってきたのです。正直言ってその想いはなかなか伝わりませんでした。それから10年の月日が経って――。徐々にそんなメッセージが共感されるようになってきたのです。僕たち夫婦(家族)はその後のいくつもの災害のたびに暮らしのなかにアウトドアのエッセンスを溶け込ませていきました。ライフラインが喪失しても道具や知識や技術が自分たちを助けてくれる、そんな暮らしを確立したのです。
僕のライフテーマは「サボり」です。ネガティブなイメージのある言葉ですが、サボれない人生なんて考えられない。日常を元気にするためにサボることは目まぐるしい世の中にも大切なことだと思うのです。大好きな焚火とハンモックはサボりの二大ツールでもあります。そんな「サボり」というワードとエッセンスを今の世の中だからこそ、あえて伝えたい。
『「サボる」防災』とは、防災をサボるのではありませんよ。肩の力を抜いて、自分たちの足元を見つめ直し、将来の人たちのことも考えて、自分たちに合った心地のいい防災を作り上げてほしいのです。それは生きる力そのものだと思います。
本書では僕らの考え方や、どのような道具を使って暮らしているかを詳らかにお伝えします。これからも楽しく豊かに暮らしたい皆さんにとってのヒントになるとうれしいです。
人生にサボりを、サボるために防災を。
アウトドアライフアドバイザー 寒川 一『「サボる」防災で、生きる』序文より
「もしも」に備えて知っておきたい実践の知恵
寒川さん夫婦が多くの人に実践して欲しいという“キャンプ×防災”。気候変動も急速に進むなか、避難が必要とされる災害はどこでいつ発生しておかしくはありません。これまで地形的に安全と思われていたようなところでも、それは起きています。キャンプでのスキルを「もしも」のときに確実に活かすためには? 安全な避難生活のために、日々意識しておきたいポイントをピックアップします。
火を確保する
火は、安全な飲み水や温かい食事を得るために不可欠のものです。バーナーやカセットコンロでもよいですが、焚火なら冷えたからだを暖めたり、濡れた衣類の乾燥に役立つだけでなく、揺れる炎が心を落ち着かせてもくれます。焚火台がない場合は、一斗缶やドラム缶、タイヤのホイールを代用しても。また、マッチやライター以外に、メタルマッチなど第3の火起こし道具があると安心です。
水を確保する
キャンプ場には水道設備があります。けれどテントを張った場所からは離れていることも。使う水はまとめて汲んでおく必要があります。限られた水を、飲料用を最優先にしつつ、どう使い回すか。キャンプは非常時を想定した体験の絶好の機会です。洗い物を減らしたり、顔や手足は洗うのでなく濡らしたタオルで拭いたり。また、水道以外の天然の水源も探しましょう。川で汲むときは容器の口を下流側に向ければ、ゴミや虫が入りにくいというのも知恵のひとつです。
水の運搬や保管は?
人間は、1日2~3ℓの飲料水(食べ物の水分を含む)が必要といわれます。ペットボトルでは運びにくいし置き場所も取ります。取っ手のついたウォータータンクなどを使えば、置いた場所がそのまま水場になります。専用のものがない場合は、大量の水を運搬するには、空のザックに大容量のポリ袋をセットし、水を入れたらしっかりと口をしばって背負うとよいでしょう。また、沸かした湯が残ったら、冷めないよう魔法瓶などに保管を。
「災害時の避難」を考える
楽しいアウトドア体験を通して身につく野外生活の知恵。本当に避難が必要な際にそれらを生かし、体調を守りながら安全に生き抜くために、考えておくべきことは?
キャンプは独立型の避難
自宅を離れて避難する場合、指定の避難所に集まるのが従来のスタイルでした。しかし大勢が密集する場所ではプライバシーが保てず、感染症の心配もあります。テントでのキャンプ避難は家族単位の独立型。プライバシーが確保でき、不特定多数の人が集まる場でのストレスもありません。道具やスキルがあれば幾日でも快適に生活できます。
自立した避難が誰かの助けになる
自分たちで寝る場所や水、食べ物などを得ることができれば、その手段を持たない人が集まる避難所の密集度を減らすことにつながり、配布される水や食品にも余分が生まれます。キャンプ避難は他の人への助けにもなるのです。ただし避難所のそばなど、目につく場所だと不審を呼ぶ可能性も。車で移動できるなら、安全な場所見つけてテントを張って、情報収集は欠かさないようにしましょう。
自分の道具を使う
避難所での混乱のなかでは、見知らぬ人が使った道具を手にしたり口に触れたりということも起きます。感染症予防の観点から、それはできるだけ避けたいところ。家族単位のキャンプでも、肌や口に触れるものは自分用を使い、共用しないようにします。 “自分の道具”を持つことは、子どもたちにとって、ものを大事にする意識や自立心を育むことにもつながります。
子どもとの時間を大切にする
避難時には子どものメンタルケアも重要です。災害への恐怖、家に帰れない不安などを少しでも低減できるよう、愛着のあるぬいぐるみやおもちゃなども持って出ることをおすすめします。ボードゲームやトランプなどもあると楽しく過ごせます。避難先での時間は、子どもとゆっくり遊べる好機と考えましょう。まわりが自然の多い場所なら、木の実拾いや昆虫観察、薪集めなども遊びに変わります。
持ち出す品は一次・二次に分ける
キャンプ用の道具や食料を避難で持ち出すには、一次・二次に分けて考えておきます。緊急避難での一次持ち出し品は、手早く運べて1、2泊を乗り切る必要最低限のものを。避難生活が長くなりそうなときには快適に生活するための二次持ち出し品を取りに戻ります。避難に余裕があるなら最初からすべて持ち出すことも可能ですが、危険が迫っているときは決して無理をしてはいけません。
装備は常にアップデートを
非常時の持ち出し用を兼ねたキャンプ装備は、使わないまま何年も放っておいてはいけません。たとえば冬期の避難で、夏用の衣類や装備しかなければとても辛いことになります。電池の切れたライト、錆びた金属製品なども、かさばるだけで使えません。ふだんのキャンプで楽しく使い方を覚えながら、非常時への備えとして状態を確認しておくことが必要です。キャンプに行く時間が取れないという方は、半日程度でも、家の庭や近所の河原などでのデイキャンプもおすすめ。
取材/秋川ゆか 撮影/飯貝拓司
8/26発売 『「サボる」防災で、生きる』 では楽しく備える暮らしのテクニックをたっぷりとご紹介しています。
アウトドアライフアドバイザー寒川一・北欧ソト料理家 寒川せつこ著
定価:1650円(本体1500円+税10%) 四六判/128ページ
寒川 一
災害時に役立つアウトドアの知識をキャンプ体験、防災訓練、書籍などを通して伝えるアウトドアライフアドバイザー。北欧のアウトドアプロダクトを多く扱う(㈱)UPIアドバイザー。アウトドアでのガイド・指導はもちろん、テレビ・ラジオ・雑誌といったメディア出演など、幅広く活躍中。東日本大震災や自身の避難経験を経て、災害時に役立つキャンプ道具の使い方・スキルを教える活動を積極的に行っている。著書『焚火の作法』『キャンプ×防災のプロが教える新時代の防災術』他。
寒川せつこ
北欧ソト料理家、UPIアドバイザー。スカンジナビアの自然と、豊かに暮らす人々との繋がりから、スカンジナビアのアウトドア文化を主に料理ワークショップを通して発信。レシピ提供したメディアは、「NHK 趣味どき!/たのしく防災!はじめてのキャンプ」、「メスティンレシピ」、「ソトレシピ」など多数。
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